第35回 天才アニメーター金田伊功の仕事を振り返る
あれから2年、氷川は夏のコミックマーケット用に1996年に取材したインタビューを完全版として出しました。また、9月7日には横浜で開催されるCEDEC2011というゲーム開発者向けカンファレンスでも、晩年に所属していたゲーム会社スクウェア・エニックスでのお仕事が紹介されます。
http://cedec.cesa.or.jp/2011/program/GD/C11_I0036.html
また同じ場で「マルチカメラパラメータを用いた映像誇張方法の提案」として、「金田パース」と呼ばれるデフォルメされた遠近法表現をCGの世界で実現する手法の講演もされるとのことです。
http://cedec.cesa.or.jp/2011/program/poster/C11_P0159.html
金田伊功さんは1970年代中盤から後半にかけて、ロボットアニメの表現に革新をもたらしたスーパーアニメーターです。
手前のものを大きく遠近感を誇張する金田パース、腕をぐっと広げたりガニ股でジャンプしたり首を傾げたりする金田ポーズ、まるで生き物のようにのたうちながらパワフルに飛ぶ金田ビーム、レンズのゴーストやハレーションを円定規で描きこむ金田びかり、ワカメのようにウネウネと金属の質感をつけた金田カゲ、球体になって弾け飛ぶ金田爆発などなど……。
予想をあらゆる観点から裏切る金田作画のインパクトは、その破天荒さで見る者を驚きと快楽へと導いたのです。一見してリアルとは対極にありながらも、脳にガツン!と来るような実感は、まさにアニメーションでなければできない表現で、多くの才能をアニメ業界へと導いたのです。
バンダイチャンネルで「月額1,000円見放題」のサービスが始まり、さっそくリストを見てみると……ありますあります。
弾け飛ぶような金田作画の回が。本当は全部観ていただきたいところですが、ここでは「金田作画とは何か?」が端的にわかるエピソードを3本だけ紹介しましょう(本当は第10話も担当してます)。
『無敵超人ザンボット3』第5話「海が怒りに染まる時」は、巨大ロボット対メカ怪獣の激闘がリアルに描かれた回。クライマックスでは正義の味方のはずのザンボット3がメカ・ブーストを攻撃すると、驚くべき結果が……。このシビアな視点のリアリズムが『機動戦士ガンダム』へと受け継がれていきますが、その原点には金田作画の説得力があったのです。
同:第16話「人間爆弾の恐怖」。第17話からの恐怖の展開の前振りですが、ここでは金田作画のもうひとつの持ち味、ギャグっぽい笑える作画と子どもキャラへの思い入れが満載です。スタッフとして参加していた『ど根性ガエル』が大好きだという、そのエネルギッシュなアクションは実に気持ちいい。バトルシーンの金田作画は動画まで本人なので、もっとも純度の高い金田アニメが観られます。
同:第22話「ブッチャー最後の日」。最終回の1本前(ラス前)の決戦話。バンドックを追って宇宙空間へ出たキングビアルの前に、守護神たる赤騎士デスカインと青騎士ヘルダインの巨体が立ちはだかる。主人公の父が家族を守るために繰り広げる死闘。その懸命な表情がみどころです。金田作画は人物描写もすばらしい。ザンボット3の必殺技が効かないため、本来は母船用のイオン砲をロボットで使う展開も見逃せない。
『ザンボット3』は本来は全部でひとつのストーリーなので、ぜひとも1話から連続で観てはほしいのですが、お時間のない方は、ぜひ金田作画をご堪能ください。巨大ロボットアニメの魅力、その原点が味わえると思います。
では、また次回(敬称略)。
第34回 映画『トランスフォーマー』と勇者シリーズ
実写映画3作目の『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』が、7月末から公開中です。
3D立体視を初めて採用の超大作、『アルマゲドン』や『パールハーバー』など、火薬使いまくりの派手な映像でおなじみ
マイケル・ベイ監督ということで、大きな話題を呼んでます。
ハリウッド娯楽大作の代表と受け止められていますが、そもそも『トランスフォーマー』は日本製の玩具が発展したもので、それ以前にロボットアニメ自体が日本発祥なのですから、それがここまで大きな存在になったという感慨もあります。
そしてこれは、1990年代を代表するロボットアニメ「勇者シリーズ」とも深いつながりがあります。
今回はその辺を話題にしてみましょう。
『トランスフォーマー』に登場する変形ロボットたちは、元はタカラ(現:タカラトミー)が「ダイアクロン」「ミクロマン」など玩具展開として発売していたものでした。これをハズブロ社がアメリカへ持ち込み、いくつか他社のロボット玩具もあわせることで、「TRANSFORMERS」と命名したのです。本来は「S」がついて複数形になっているので、「トランスフォーマー族」みたいなニュアンスもあります。「TRANSFORMER」とは電気の「変圧器」のことですが、形(FORM)を変化(TRANS)させるという語源どおりの意味に転じてるとこがうまいです。
これを日本の東映アニメーションが中心になってアニメ化した作品が1984年に製作、日本には1985年に逆輸入されたTVシリーズ『戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー』というわけです。
このとき重要なのは、アメリカナイズする一貫として「ロボット生命体」という設定をつくったことです。もともとコンボイ司令を筆頭に、地球の乗り物がロボットに変形するものが中心ですから、伝統の巨大ロボのように人間が乗るという設定でも良かったはずですが、自意識をもたせて口が動いて言葉を話す「ロボットキャラ」にしたことが、今の発展につながってると思います。
80年代中盤とは、ちょうど日本のロボットアニメがリアルロボット全盛期から、次第に下り坂に向かう時期でもありました。その要因はよくOVAに求められるのですが、実は「合作ブーム」があって海外向けに制作スタッフやビジネスのリソースが割かれていたという事情も大きいんですね。
「トランスフォーマーシリーズ」は日本でもヒットし、独自のTVアニメも作られることになります。
一方で、いったんはハイターゲットをきわめた後に終焉に向かったロボットアニメを、児童向けにリセットして再開したいという機運も生じてきます。90年代序盤のアニメにはリスタート気分が漂った作品が多いのですが、皮切りとして登場したのが1990年2月放送開始のTVアニメ『勇者エクスカイザー』でした。
このヒットが、1998年の『勇者王ガオガイガー』まで全8作が作られる「勇者シリーズ」へと発展していきます。そしてスポンサーは「トランスフォーマーシリーズ」と同じタカラ、主な商材は自動車や新幹線など「乗り物」が変形・合体するロボットだったというわけです。
『エクスカイザー』の特徴は主人公が子どもであることですが、それ以上にエポックメイキングだったのは、主人公が「主役メカ」に乗らないことです。エクスカイザーは「宇宙警察カイザーズのリーダー」と設定されています。要するに人格をもった宇宙人です。そして次々とやってきたカイザーズの仲間は、地球の乗り物と融合して見た目は変形ロボットとして活躍し、主人公と友だちになっていきます。
ここに「子どもとロボットが友だち関係」という新しいジャンルが誕生したわけです。それは「トランスフォーマーシリーズ」から大き受け継がれた要素を、さらに発展させたものだったということなんですね。
次の1991年には、この成功をバネにサンライズがさらなる子ども向けロボットアニメの展開を提示し、新たな黄金期を迎えます。勇者シリーズ第2弾『太陽の勇者ファイバード』では、主人公の兄貴分に相当するファイバードの人間体が登場し、「友情」という要素をさらに深めます。また同年には、トミーをスポンサーにして『絶対無敵ライジンオー』が始まり、ここで小学五年生が教室から発進したロボに乗り込むという夢のシーンが実現します。「勇者シリーズ」とは相互補完するかのような関係で、小学生の夢をかなえていたというわけですね。
このように、ロボットアニメの歴史を考える上でも、「トランスフォーマーシリーズ」の存在はカナメとなっているわけです。そんなことを念頭において新作実写映画を楽しみつつ、勇者シリーズを再見して「アニメでなければできないこと」を楽しむのも一興ではないでしょうか。では、また次回(敬称略)。
第33回 『BLOOD-C』あまたの才能が集結する異色シリーズ
7月新番組も春に負けず劣らずの力作ぞろいで、嬉しい日々が続いています。
いよいよ完全移行の地上波デジタルに対応した高密度なアニメも多く、そこに『BLOOD-C』(水島努監督)が入っていることが、時代の変革期の象徴にみえて目をひきました。
20世紀最後のミレニアムイヤー、2000年にProduction I.Gが放った『BLOOD THE LAST VAMPIRE』(監督:北久保弘之)は、アナログからデジタル制作への移行期にあって、ある種の記念碑的な中編映画でした。ここでは詳細は略しますが、空気感や光の表現などデジタルが可能とする色彩や撮影表現の基礎を築いた作品だったのです。
この作品が後に『BLOOD+』(藤咲淳一監督)、『BLOOD-C』と続くBLOODシリーズのルーツにあたります。
小夜と呼ばれる「セーラー服と日本刀」の少女がバンパイアを狩るという共通点をもちつつ、それぞれ独立した設定で物語を展開するという点が、なかなか他のシリーズにはない特徴でしょう。
こうしたバンパイアハンターものは、21世紀早々のこの10年あまり、世界的に実写で多くつくられています。本作自体も、2009年に香港・フランス共同の実写映画『ラスト・ブラッド』としてリメイクされたほどです。『キル・ビル』や『エンジェル・ウォーズ』など日本刀をもつヒロインものが多く作られたのも、本作の影響によるでしょう。『キル・ビル』でタランティーノ監督がProduction I.Gにアニメパートの発注をかけているのが、何よりの証拠です。
原点にあたる『BLOOD THE LAST VAMPIRE』では「企画協力:押井守」とクレジットされています。半ば伝説となっているProduction I.Gの企画ワークショップ「押井塾」が生み出したもので、押井守監督の出したお題に参加者が企画書を提出して品評するというスタイルでした。塾の参加者だった神山健治(後に『THE LAST VAMPIRE』で脚本を担当)が提出した吸血鬼ものと藤咲淳一(後に『+』を監督、『C』では脚本)の出した企画の「セーラー服と日本刀」というビジュアルが合体してできたのが、この「BLOODシリーズ」の骨格というわけです。
今回興味深いのは、クリエイター集団CLAMPが原作に参加している点です。すでに水島努監督とProduction I.GはCLAMP原作の『xxxHOLiC』をアニメ化した実績があり、『BLOOD-C』でも、CLAMP独特の鮮烈な美意識に彩られた世界観が表現されています。ハイコントラストでモノトーンに赤い血が映えるという色彩感覚の中、細身ながらも存在感あふれるヒロインが日本刀をふるうというビジュアルには、CLAMPが参加したことによる鮮烈な様式美が、たしかに感じられます。
今回の小夜は、学校に通ってる間は眼鏡っ子の天然な要素をもつ巫女で、「古きもの」と刃を交えるときには表情ごと戦闘モードに一変します。この二面性をもつヒロインを描くのが水島努監督というのも納得でした。ギャグ作品では『侵略!イカ娘 』や『よんでますよ、アザゼルさん。』、シリアスな戦いがある作品では『おおきく振りかぶって』と、どっちに振ってもOKな二面性のある才人ですから、実に適材適所なのです。
アニメーションキャラクターデザインは、『THE LAST VAMPIRE』では寺田克也の原案をアレンジし、『xxxHOLiC』も担当したアイジーの精鋭・黄瀬和哉が担当。総作画監督は「アイジーのG」こと後藤隆幸ですから、美しいキャラ描写からモンスターとの激しい日本刀アクションまで、アニメーション作画的な見応えも充分でしょう。
まだ始まったばかりですが、以上のような連綿とした流れの果てにあり、そこにまた卓越した異能のクリエイターが結集した作品であることには、ぜひ注目してほしいです。何かまた常識破りの新しいことが起きそうな予感がします。では、また次回(敬称略)。