第38回 心に迫るダイナミックなアクション! 大張正己の作画と演出

[  カテゴリ  氷川竜介のチャンネル探訪  ] 2011年09月30日 10:58

月額1,000円見放題サービス、9/26の新着ラインナップを見たら最上段に『銀装騎攻オーディアン』『超神姫ダンガイザー3』『太陽の勇者ファイバード』が並んでいて、興味をひきました。
いずれも監督・アニメーターの大張正己が深く関わった元気いっぱいの作品です。
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(C)プラム/オーディアン製作委員会
 1980年代はガンダムのヒットによる活況で、ロボットアニメが量産された時代です。その当時業界にはいってきた新人クリエイターたちにも、いろんな試みができる大きなチャンスが与えられたのです。アニメーターに関する状況を引っぱったのは、35回36回で取りあげた原画マン金田伊功です。そのメカやエフェクトのエネルギッシュな作画は、「金田フォロワー」のアニメーターたちを数多く生みました。
 そうやって戦闘シーンなどにこもったパワーは80年代アニメに燃え上がるような雰囲気を与えて、受け手の側も熱く刺激していました。大張正己はそんな双方向に熱かった時代の中で出てきたさらに若手と言える世代で、80年代中盤以降に『超獣機神ダンクーガ』のロボット作画で注目され、頭角を現したアニメーターです。
 肩を大きく張り出して遠近感を強調し、指をねじ曲げるように広げた独特のポーズ、タメとツメと時間の認識を誇張したダイナミックなアクション、複雑に描きこまれたディテールとうねるような陰影、メカなのにどこか人間味を感じさせる表情や生物的な関節の曲がり方などの作画手法は、後世に大きな影響を与えています。
 それはもちろん金田伊功作画へのリスペクトがベースなのですが、明らかに一歩踏み出しているイメージも強い大張作画のパワフルな迫力は観る者を圧倒します。現在でもロボットアニメの変形合体や、武器・必殺技の決めポーズで、ぐぐっと手前に飛び出すようなデフォルメが効き、バキーン!と見得を切るような止めポーズになる類の「様式」を感じさせる作画が多いですが、それは「おおばり」という名字にちなむ「バリ系」の流れに属するものなのです。
 80年代後半に到来した「OVAの時代」はテレビの枠をはみ出た濃い作品が多く、大張正己は『戦え!! イクサー1』『破邪大星ダンガイオー』『大魔獣激闘 鋼の鬼』など、エロやバイオレンスも見せ場となる作品でメカとエフェクト中心の作画監督として活躍。また『機甲戦記ドラグナー』のオープニングアニメが高く評価されたことで、『超時空要塞マクロスII -LOVERS AGAIN-』などOPも数多く担当しています。
 本編の監督を手がけるようになったのは『バブルガムクライシス』の5話からで、ここから作画と演出とが強くリンクしたダイナミックな大張作品が数多く生み出され始めます。

(C)AIC・EMIミュージック・ジャパン
原作・監督の『オーディアン』と『ダンガイザー3』は作家性が強いですが、一方で大張正己は『勇者エクスカイザー』から始まるサンライズの勇者シリーズ(34回目で触れました)の作画を手がけ、児童向けロボットアニメでも活躍していることに注目です。
 特に第2作目の『太陽の勇者ファイバード』では、いわゆる変形・合体のDN(デュープネガの略で毎回流用される定型のシーン。
セル流用のBANKに対して撮影済みフィルム流用を意味する)を中心に、ここぞという重要場面のロボット作画を担当。特に最終回でヒーローロボットのマスクが破壊されて下から口が露出する場面は強烈なインパクトで、続く作品群にも「様式」として受け継がれるようになっていきます。
 勇者シリーズと言えばメカデザインは大河原邦男ですが、そのコラボの延長にある大張監督の総決算的なロボットアニメが、ゴンゾ制作の『超重神グラヴィオン』です。キャラの立った群像劇に加え、ドリルもミサイルもビームも満載のメカ戦闘、壮大なストーリーとメイドさんや水着回があるなど振り幅の広い大張アニメの魅力が満載で、元気の出てくる爽快な作品です。未見の方はぜひそのパワフルな作画から放たれるオーラを浴びてみてください。
では、また次回(一部敬称略/定額以外のタイトルを一部含んでいます)。

第37回 『少女革命ウテナ』小林七郎の美術を楽しむ

[  カテゴリ  氷川竜介のチャンネル探訪  ] 2011年09月16日 13:05

月額1,000円見放題サービスがスタートしたタイトルの中でも『少女革命ウテナ』が人気と聞いて、とても嬉しくなりました。
現在オンエア、配信中の話題作『輪るピングドラム』の影響でしょう。
あのアニメでしか描けない華麗で激しく美しい幾原邦彦監督の世界観のルーツを知りたいなら、たしかに『ウテナ』を観るのがベストなわけです。
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 ひさしぶりに再見してみたら、まずは大ベテラン小林七郎さんの美術に感動してしまいました。この美的センスにあふれた背景は、やっぱり『ウテナ』の表現力を底の部分から持ち上げているものだと思います。『ガンバの冒険』、 『あしたのジョー2』、『ルパン三世 カリオストロの城』、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』などアニメの歴史的名作を支えてきたその美術は「絵画」であることを重視したものです。
 小林プロダクションの背景は、よく観察してみるとどの画面、どのカットでも、必ずフラットに見えないような工夫があることがわかります。人間の目の視覚的な集中力が自然にすっと向かう部分と、そうでもない部分が用意されていて、そうした疎密のバランスが演出的な効果を高めて観客の意識を触発するのです。
 背景の中には、描きこまれたポイントと、白に飛ばすか暗く潰すか色だけになっている部分が大きくエリアとして用意されています。それも単純なリアリズムではなく、たとえばキャラクターの周囲だけすっとヌケていてその人物を際立たせて見せるとか、バックの半分が黒くなっていて感情を反映しているとか、観客の心情を膨らませるための余白としてのエリアなわけです。
 舞台や実写映像で言えば「大道具+照明」に相当する効果があって、セルを置いた完成画面が「絵画」として完成するようにも描かれています。セルの色彩設計も『ウテナ』は非常に美しいですが、背景もそれを前提にした配色が選ばれていて、「絵としてのトータルパワー」をぐっと向上させています。実際、撮影処理がほとんどない撮りきりなのに、処理があるのと同等の効果を上げているカットが多くて、改めて感心しました。
 緻密なように見えるところについては、マジック等で黒くポイントが強調されていたり輪郭が補強されていたりするのも、小林プロの背景の大きな特徴です。広い面積のところでは筆目のタッチも活かされています。つまり細部においても絵画的な疎密が意識されていて、画面中で何が大事なのか、描き手の主張が伝わってくるのです。特に石細工の壁面や彫刻像、あるいは決闘場に昇る階段などはこうした技法の集大成で描かれていて、独特な質感と存在感を醸し出して、激しくもスタイリッシュなドラマを盛り上げています。

(C)ビーパパス・さいとうちほ/小学館・少革委員会・テレビ東京
 現在、特に深夜アニメで美術と言えば、現実世界をロケハンしたような緻密に描きこまれたものが主流だと思います。レイアウト上のパースなども定規や3Dソフトで直線による遠近をカッチリとったスキのないもので、小物や看板類など細かいものも略さないようになってます。加えて撮影(コンポジット)でフィルタ効果などをかけ、背景の光の照り返した部分をより光らせたりボカしたりすることで情報量を増やし、非常にみっしりと、あるいはこってりした背景が多くなっています。
 それに慣れた目からすると、『ウテナ』の美術は、あっさりと、さっぱりとして見えるかもしれません。しかし、問題は画面全体からぱっと立ち上ってくるインパクト、あるいは感動の燃料となるエネルギーの有無だと思うのです。ひさびさに『ウテナ』の背景を見て、心がどきっとさせられる瞬間が何度かありました。その種の芸術的な感動をもとめて、アニメを観ているんだなと再確認できました。『輪るピングドラム』もまた、そうした絵画的感動の文脈に位置づけられる作品だと思います。残念ながら小林プロダクションは2011年2月に解散しましたが、後進の美術監督が大勢アニメ業界でがんばっておられるので、今後にも期待しています。では、また次回(一部敬称略)。

(C)イクニチャウダー/ピングループ

第36回 天才アニメーター金田伊功の仕事を振り返る(2)

[  カテゴリ  氷川竜介のチャンネル探訪  ] 2011年09月02日 12:57
日本のアニメを変革したアニメーター金田伊功(2009年に物故、享年57歳)。
アクション、エフェクトとその天才的な仕事は将来にわたり「日本独特の作法」として継承されていくことでしょう。

 一方、ロボットものではないSF作品の作画も金田さんはすばらしい。
これはぜひとも強調しておきたいことです。
本来は無機質なマシーンの宇宙船や戦闘機が、まるで生命を得たかのように駆けぬけ、乱舞のようにバトルする。メカやエフェクトだけでも充分に見せ場となる味わい深い作画は観客に高揚感をもたらし、時代を変革させるものすごいパワーを秘めていました。
 その分野における金田作画は、劇場版『銀河鉄道999』('79)の惑星メーテル崩壊や『ヤマトよ永遠に』('80)の中間補給基地など映画の仕事がよく知られています。
ですが、ここではそうしたメジャー作品の先がけとなる『
無敵鋼人ダイターン3』('78)、
その第12話「遙かなる黄金の星」をまっさきにとりあげたいと思います。

(C)創通・サンライズ
 作品のジャンルはロボットアニメですが、ヒーローものとしても知られた作品です。
ダンディでかっこよく強い波嵐万丈が美女アシスタント2人とメガノイドの起こす怪事件を追い、クライマックスでは巨大ロボットダイターン3を呼んで格闘戦となる、そんなハイブリッド的な作品ですね。『
ザンボット3』に続く富野由悠季監督作品ですが、シリアスから一転した明るくユーモラスな作風は、今でも多くのファンの記憶に刻みこまれています。金田さんご本人もノリノリで、それは第2話「コマンダー・ネロスの挑戦」などのロボットアクション作画からもよく伝わってきます。

(C)創通・サンライズ
 そんな万丈の痛快な活躍を10話ほど描いた後に登場した異色作がこの第12話で、明るく屈託のない快男児と思われていた万丈の過去にまつわるエピソードでした。万丈の父親が推進していた宇宙開拓用サイボーグの開発計画のどこかに歪みが生じ、メガノイドは人類に反旗を翻す。そこで母親が万丈を火星からロケットで脱出させ、そのとき持ち出した金塊などが万丈のバックボーンとなって戦いが続いていることが明らかになります。
 回想シーンは人物もメカも全編がアブノーマルなモノトーン彩色で、トレスとペイントを2色で塗り分ける「TP2色」という技法が使われています。マサアロケットと追撃するメガノイド側の巨大メカを中心としたスペースバトルも白を基調としたモノトーンで描かれていますが、ちょうどこの時期はアメリカ映画『スター・ウォーズ』が日本で公開されたタイミングだったことを思い出させます。
 ミニチュア側を固定し、カメラの方をコンピュータ制御するという新技術モーション・コントロールカメラが使われた『スター・ウォーズ』。それは1コマ単位の長時間露光が可能となり、作り込まれたミニチュアのディテールにまでピントが合う画期的なものでした。空気のない宇宙空間で平行光線があたっている効果を見せるためにも、ミニチュアは白をベースにペイントされ、陰影を強調するような作りとなってました。
 1960年代中盤まで「宇宙ロケット」のイメージは「銀」が一般的でした。ところが実際にアポロ計画が始まったあたりで「白」が基調に変わり、映画『2001年宇宙の旅』や『スター・ウォーズ』もそれを踏襲しています。さらに『ダイターン3』では「その変化をどうアニメに持ち込むか」ということが試行されていたわけです。
 結果的にこのメカ戦闘は、金田伊功さんならではの大胆なカゲつけが施されつつシャープなアクションとなっていて、洋画とはまたひと味違うものに仕上がっています。途中、ダイファイターが戦闘機迎撃に出ますが、ロボットに変形しない抑制もいい感じ。Aパート中盤からのわずか数分のシークエンスですが、実写の進化をアニメがどう取りこむかという意欲が伝わってきて、今でも非常に新鮮だと思います。
 先述の第2話でも円や直線のブラシワークで構成された「光」が続出していますが、これも同年公開の大作映画『未知との遭遇』の影響なんですね。。アニメーションで「光」を自在に動かす爽快さは実に面白いです。
 ダイターン制作当時、作画担当のスタジオZで金田さんにお会いしたとき、「実写であんなことやられたら困るよね」と苦笑いしながらも、この2話や12話の原画に鉛筆を細やかに走らされていた姿が、昨日のことのように思い出されます。漫画家・星野之宣の当時まだ単行本化されていなかった『巨人たちの伝説』も参考にされてましたので、まさに先鋭的な宇宙描写のブレンドだったのです。
 ある種の刺激的なインパクトを外圧として受け止めつつ、それをアニメならではの画づくりに置き換え、自らの表現として消化していた金田伊功さん。その仕事にこめられたエネルギーもまた、新たな世代を刺激し続けるものとなったのではないでしょうか。では、また次回(敬称略)。


《情報》
●CEDEC2011(ゲーム開発者向けカンファレンス)
9月7日、晩年に所属していたゲーム会社スクウェア・エニックスでの金田伊功さんのお仕事が紹介されます。
http://cedec.cesa.or.jp/2011/program/GD/C11_I0036.html
 また別途、「マルチカメラパラメータを用いた映像誇張方法の提案」として、「金田パース」と呼ばれるデフォルメ遠近法表現をCGの世界で実現する手法も紹介されます。
http://cedec.cesa.or.jp/2011/program/poster/C11_P0159.html