誰も予想しなかった大人気作品となったのが水島努監督の『侵略!イカ娘』(原作:安部真弘)でした。
「1分の1スケール触手切り落とし」(第1巻)とか「ミニイカ娘フィギュア」(第3巻)とか、
ツボを押さえた特典のBlu-rayも、まさに大ヒット中です。

海洋汚染を続ける人類への復讐として、深海から人類制服を目的にやってきたイカ娘。
その侵略拠点として最初に襲撃した“海の家れもん”の相沢姉妹には
なぜか頭があがらず、いつの間にかこき使われ、同居して居候になってしまうことに……。
そんな感じで、制圧しに来たのに制圧されるという、「ほのぼの侵略コメディ」と宣伝文句まんまの内容と設定の作品です。
本作のどこに魅力があるかと言えば、それはイカ娘の存在自身でしょう。
特に彼女の備える「かわいい美少女の外見とおぞましいはずの侵略者のギャップ」には、たまらないものがあります。
萌えキャラの中心からズレているかもしれないけど、充分にカワイイ外見。
庇護願望をかきたてるようなチャームポイントの数々が実は触手だったり、口からイカスミを吐いたりするという、得体のしれなさ。
そんなイカ娘だけでも充分にキャラがたっているのですが、
相沢姉妹をはじめとする周囲のキャラが「深海からの侵略者」以上にエキセントリックで、次々に登場しては非常にイイ味出して笑わせてくれるわけです。
こうした「ヘンなキャラによって、ヘンな状況がエスカレートしてカオスな笑いが生じる」という演出は、これまで数多くのギャグアニメを演出してきた水島努監督ならではの持ち味でしょう。



(C)安部真弘(週刊少年チャンピオン)/海の家れもん
監督のフィルモグラフィー(作品リスト)をみると一目瞭然ですが、そのキャリアはシンエイ動画からスタートしています。
演出家としては『クレヨンしんちゃん』シリーズで頭角をあらわし、
原恵一監督の名作として知られる『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』 や
『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』などにも絵コンテと演出で参加している実力派なのです。
そしてシンエイ動画といえば、『ど根性ガエル』や『新オバケのQ太郎』など
「居候ギャグ」というか「生活空間の中に同居してくる異物コメディ」を制作していたAプロダクションの流れをくむ会社。
そしてシンエイの代表作と言えば、藤子・F・不二雄原作の『ドラえもん』なわけです。
言わずと知れた「おかしな居候もの」の決定版です。
こうした「居候もの」の特徴は、居候に「日常から飛躍した属性」がついていることです。
つまり「オバケの国から来た大食漢」であるとか
「Tシャツに貼りついた平面ガエル」であるとか「未来から来たネコ型ロボット」だとか……。
だいたい15文字もあれば書けるという特徴、
それはすなわち誰にでもイッパツで理解できる「キャラだち」をそなえているというわけです。
……という流れから分かるとおり、この『侵略!イカ娘』というアニメは、原作漫画があるとはいえ、
水島努監督でなければ描けない類の「おかしな居候」の系譜の正統なる後継アニメと言えるわけです。
「深海から人類侵略にやってきた娘」、
ほら15文字で書ける。
30分枠なのに、A、B、Cパートと3本立てなのもテレビアニメが始まったころの雰囲気まんまで、
実になつかしい雰囲気も漂わせているので、それがかえって新鮮だったのかもしれませんね。
流れと言えば、もうひとつ。水島努監督による「美少女ギャグの系譜」にも注目してほしいところ。
ですが、文字数が尽きました。
というところで、また次回(敬称略)。