第21回 『劇場版マクロスF〜イツワリノウタヒメ〜』現実と相互干渉するアニメ世界

[  カテゴリ  氷川竜介のチャンネル探訪  ] 2011年01月21日 10:40

10年以上のロングランアニメ数ある中でも、マクロスシリーズは現実世界とアニメ世界の橋渡しや相互作用という点で、他に類をみない独特のポジションを築きあげたように思えます。
ことに『マクロスF』では劇中で活躍する歌姫シェリル&ランカがスクリーンから飛び出したかのように、May'nと中島愛の歌が大ヒットし、全国ツアーや武道館コンサートに結びついたということは、非常に象徴的なことに感じられます。
 
(C)2007 ビックウエスト/マクロスF製作委員会・MBS
いくら劇中で「大スター」「人気アイドル」と言ってみたところで、フィクションとしてそう描けばいいだけのことなのです。
でも、それを現実にしてビジネスの成果にまで結びつけるのは、実に大変なわけです。そこに菅野よう子という作曲・プロデュースの天才がいたのは大きななファクターですが、それだけでもない気がしています。
『マクロスF』の場合、TVシリーズから劇場になるプロセスで「実体化現象」みたいなことが起きて、拡大していきました。それを面白がった河森正治総監督たちスタッフは、劇場用新作カットをつくるうえで非常に興味深い工夫をしています。
たとえばフロンティアに来訪したシェリルのコンサート会場は「星道館」という新規の場所に置き換えられてますが、これは「武道館」をモデルにしたものです。
筆者は仕事の一環で武道館ライブにも行きましたが、そのときの雰囲気が実によく再現されていました。
具体的にはホールの空間の広さ、ライトアップが横切る空気感、埋めつくした観客の並びなどです。単純に作画や撮影をグレードアップしただけではなく、現実に存在したコンサート人の空気がフィードバックされているのです。
同じ仕掛けは映画のクライマックス、水上コンサートにも言えます。これは湾岸に位置する横浜パシフィコでライブが行われたときにロケハンをしたものでしょう。会場前で入場待ちをする人の群れ、次第に暮れなずんでいく岸辺のビル群のライティングなど、筆者が横浜にうかがったときの記憶が刺激されました。
さすがにホログラムの帆を張ったコンビナート船などは映画のためのフィクションですが、現実の空気がアニメ画面の中にも吹き込んできているだけに、その架空の舞台も自然とリアリティを感じ始めます。ここでシェリル&ランカの歌う「ライオン」にしても現実世界ですでに大ヒットした曲ですから、一種の必殺ワザ的に衝撃が効いてきます。
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 こうした虚構と現実の入り交じった中から、何か独特の感興がかもし出され、心を揺さぶり始めます。現実からの逃避でもなく、あるいは現実の引き写しでもない世界。アニメと現実が響きあって、互いに行き来する魂の波動のようなものがあって、そこだけで生まれる貴重な感情。こんなときには、「ああ、アニメっていいなあ」と改めて心に染みるものを覚えます。
ますます完結編が楽しみになってきますね。ではまた次回(敬称略)。