3月26日から3D立体視版が劇場公開される
『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』についても、少し考えてみましょう。

(C)2011 士郎正宗・Production I.G / 講談社・攻殻機動隊製作委員会
神山健治監督が押井守監督とはまた別の解釈でTVシリーズとしてつくった『攻殻機動隊S.A.C.』シリーズで唯一の長編です。
2D版は2006年で、バンダイチャンネルでも視聴が可能です。
3D立体視バージョンでは主観映像に独特のサイボーグ的な立体感が加わっていて、
観客は自身が義体化されたかのような疑似体験ができます。
単にアトラクション的な趣向に留まらず、ドラマの緊張感を盛りあげるために使われているあたり、
実に神山健治監督らしい応用法だなと思いました。
物語内の時代は西暦2034年と20数年後の「未来」に設定されています。
世界大戦の影響もあって、人間がサイボーグ化することが特別ではなくなった未来。
今とは違う時代だから、起きる犯罪や人の行動が変わるかと言えば、
それはきっと変わらないとしているのが、非常に面白い視点です。
人の思考や価値観は時代や国、地域など環境次第で変わります。
ところが大局的にみると、人の本質ってそれほど変わらないものなんですね。
三国志や戦国時代、明治維新や第二次世界大戦の物語が時代を超えて好まれたりするのが、その証拠です。
逆に現代社会で起きることも、未来を描くヒントになりうるわけです。
第1シーズンの「笑い男事件」が「グリコ森永事件」や「丸山ワクチン事件」など昭和の事件を
換骨奪胎して電脳社会に投影した姿勢は、非常に斬新でした。

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会
第3部の「Solid State Society」でも、同様の現実との接点を強く見いだすことができます。
特にそれが際だつのは「貴腐老人(きふろうじん)」という言葉でしょう。
寝たきりで介護システムに接続され、しなびて死んでいく老人のことです。
「貴腐ワイン」の原料となるブドウにたとえたもので、「寄付」と聞こえること含めて多層的な意味を重ねていると思えます。
事件との関連は本編で驚いていただくとして、「これって他人事じゃないな」と冷や汗が出たところが問題でした。
西暦2034年に、自分は何歳になっているのかカウントしてみたのです。
私は76歳になっているはずです。あそこまで衰弱した老体になってるかは不明ですが、範囲内だろうと思いました。
2D版が制作された2006年は「団塊の世代」の大量退職が話題でした。
太平洋戦争終結の1945年直後に起きたベビーブームが60年経過した時期ということです。
その「団塊の世代」が90歳近くにさしかかっている時代性を意識したとたん、
干支がひと回り違う自分も射程内にはいった気がしました。
この作品にはもうひとつ少子化社会も投影されてますから、
それが絡むとなると、われわれかつての「TVっ子」世代以後が当事者になってくるわけです。
それゆえ、事件の真相には考えこんでしまうところが残りました。
2030年代にあそこまでサイボーグ化社会になるとは考えにくい部分もありますが、
一方でインターネットや携帯電話のこれだけの普及と進化はSF作家ふくめて誰も予想してなかったわけです。
Twitterのタイムラインを見て、サイボーグ社会の電脳会話をのぞき見してる気分になることもあって、
そこで「肉体改造しなくても本質は同じ」という前回述べた押井守監督の指摘が再浮上します。
作り物のフィクションであったとしても、見る観客の属している現実をこのように反射して見せることは可能なわけです。
アニメの中に妙なリアリティを感じたとしたら、きっとそこにはこんな現実とのリンクが隠されているのではないでしょうか。
2D版と3D立体視版と、物語と基本的なシーン自体は同じですが、
サイボーグ化された視線で再見しつつ、
「これは現代についての物語かも」と念頭において、出来事を深読みしてみるのも一興かと思いました。
ではまた次回(敬称略)。


(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会
第25回 『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』現代の姿を未来に投影するフィルム
[ カテゴリ 氷川竜介のチャンネル探訪 ]
2011年03月25日 18:42
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