注目の人気作となった『TIGER & BUNNY』。ホントに面白いですね。
軽妙なテンポで進む、ベテラン&ルーキーの「バディ(相棒)もの」はエンターテインメントの王道でもあります。各キャラのヒーローとして活躍する格好良さと、どこかダメなところがある人間くささのギャップが魅力で、笑ってジンとくる作品です。アメリカンコミックに通じるスーパーヒーローものという、ある種の様式美を活かした題材と世界観もすばらしい。
まだまだ未開の大きな鉱脈があると感じられるところも、嬉しいですね。
監督のさとうけいいちは、デザイナーとしても大活躍しているクリエイターです。
特撮ものも手がけ、『百獣戦隊ガオレンジャー』や『忍風戦隊ハリケンジャー』、『ウルトラマンマックス』など王道中の王道の作品を担当しています。
アニメのデザインではキャラクター、メカ(巨大ロボ)、コンセプトと、世界観ふくめてまるごと構築した『THE ビッグオー』(片山一良監督)が代表作と言えるでしょう。
これは『TIGER & BUNNY』をポジにたとえるならネガに相当する作品で、雰囲気のいいスタイリッシュな作品です。
『THE ビッグオー』の舞台は、すべての記憶をなくしたパラダイム・シティ。
ダークでモノトーン風の都市はニューヨークがベースです。
主人公ロジャー・スミスは元軍警察で、凄腕のネゴシエイター(事件を解決する探偵みたいなもの)。
美少女アンドロイドのドロシーを連れて難事件の解決に挑みますが、屋敷には老執事がいて黒塗りの武装セダンで活躍するなど、アメコミ的でハードボイルドな道具立ても満載です。
巨大ロボットの表現が、さとうけいいちが作画監督として参加したOVA『ジャイアント・ロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』に通じるレトロなムードなのも、様式美を感じさせる一因です。腕時計型通信機を使うことで現場へ出動する“THE ビッグオー”と敵対するメガデウスは、アニメなのに人間が入った着ぐるみのようなプロポーションのデザイン。
特撮テイストのバトルも嬉しい娯楽ヒーロー作品なので、必見でしょう。
そして、さとうけいいち企画・原案・監督作品のOVA『鴉 -KARAS-』も、『TIGER & BUNNY』に通じる道として、ファンには嬉しい発見が多くある作品でしょう。
こちらは和風テイストを強調しています。現実とは少しズレた禍々しい雰囲気に包まている異世界風の新宿が舞台。カラスは都会に多く棲息していますが、もしそれが「街の守護者」だったら、という発想がユニークです。戦う相手はメカと融合したハイテク妖怪と、これも和風。タツノコプロ40周年記念作品でもあり、等身大のスーパーヒーローが肉体を駆使した凄絶なバトルを行い、臨機応変に飛行形態などメカ風に変わるあたり、『破裏拳ポリマー』などかつてのタツノコヒーローを彷彿とさせます。
映像表現も実に特徴的。変身前のキャラクターは手描き作画の2Dですが、“鴉”や妖怪たちは基本的に3DCGによって描写されています。ただしモーションキャプチャは使用せず、あくまでも「手づけ」にこだわってのケレン味あふれるアクションは、殴る・蹴るの重い実感にあふれ、流麗に日本刀をさばくポーズもカタルシスがあります。
“鴉”に変身する乙羽と妖怪側で大きな役割をはたす鵺(ぬえ)と、やはりバディものの変形みたいなところもありますね。
映像へのこだわり、ヒーローと仲間の関係、池頼広によるハリウッド大作みたいな重厚な音楽などなど、さまざまな要素が『TIGER & BUNNY』へと受けつがれているようにも思えますね。
どんな作品にも連綿とつながる文脈があるという意識で見ると、また新たな発見があることと思います。
では、また次回(敬称略)。
第31回 『TIGER & BUNNY』と さとうけいいち監督のヒーロー魂
[ カテゴリ 氷川竜介のチャンネル探訪 ]
2011年06月17日 11:41
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