第35回 天才アニメーター金田伊功の仕事を振り返る

[  カテゴリ  氷川竜介のチャンネル探訪  ] 2011年08月19日 16:36
2009年、突然57歳で惜しまれつつ急死したアニメーター金田伊功。2年経った今でも、まだ信じられない思いです。
あれから2年、氷川は夏のコミックマーケット用に1996年に取材したインタビューを完全版として出しました。また、9月7日には横浜で開催されるCEDEC2011というゲーム開発者向けカンファレンスでも、晩年に所属していたゲーム会社スクウェア・エニックスでのお仕事が紹介されます。
http://cedec.cesa.or.jp/2011/program/GD/C11_I0036.html
また同じ場で「マルチカメラパラメータを用いた映像誇張方法の提案」として、「金田パース」と呼ばれるデフォルメされた遠近法表現をCGの世界で実現する手法の講演もされるとのことです。
http://cedec.cesa.or.jp/2011/program/poster/C11_P0159.html

金田伊功さんは1970年代中盤から後半にかけて、ロボットアニメの表現に革新をもたらしたスーパーアニメーターです。
手前のものを大きく遠近感を誇張する金田パース、腕をぐっと広げたりガニ股でジャンプしたり首を傾げたりする金田ポーズ、まるで生き物のようにのたうちながらパワフルに飛ぶ金田ビーム、レンズのゴーストやハレーションを円定規で描きこむ金田びかり、ワカメのようにウネウネと金属の質感をつけた金田カゲ、球体になって弾け飛ぶ金田爆発などなど……。
予想をあらゆる観点から裏切る金田作画のインパクトは、その破天荒さで見る者を驚きと快楽へと導いたのです。一見してリアルとは対極にありながらも、脳にガツン!と来るような実感は、まさにアニメーションでなければできない表現で、多くの才能をアニメ業界へと導いたのです。
バンダイチャンネルで「月額1,000円見放題」のサービスが始まり、さっそくリストを見てみると……ありますあります。
弾け飛ぶような金田作画の回が。本当は全部観ていただきたいところですが、ここでは「金田作画とは何か?」が端的にわかるエピソードを3本だけ紹介しましょう(本当は第10話も担当してます)。


『無敵超人ザンボット3』
第5話「海が怒りに染まる時」は、巨大ロボット対メカ怪獣の激闘がリアルに描かれた回。クライマックスでは正義の味方のはずのザンボット3がメカ・ブーストを攻撃すると、驚くべき結果が……。このシビアな視点のリアリズムが『機動戦士ガンダム』へと受け継がれていきますが、その原点には金田作画の説得力があったのです。

同:第16話「人間爆弾の恐怖」。第17話からの恐怖の展開の前振りですが、ここでは金田作画のもうひとつの持ち味、ギャグっぽい笑える作画と子どもキャラへの思い入れが満載です。スタッフとして参加していた『ど根性ガエル』が大好きだという、そのエネルギッシュなアクションは実に気持ちいい。バトルシーンの金田作画は動画まで本人なので、もっとも純度の高い金田アニメが観られます。

同:第22話「ブッチャー最後の日」。最終回の1本前(ラス前)の決戦話。バンドックを追って宇宙空間へ出たキングビアルの前に、守護神たる赤騎士デスカインと青騎士ヘルダインの巨体が立ちはだかる。主人公の父が家族を守るために繰り広げる死闘。その懸命な表情がみどころです。金田作画は人物描写もすばらしい。ザンボット3の必殺技が効かないため、本来は母船用のイオン砲をロボットで使う展開も見逃せない。
『ザンボット3』は本来は全部でひとつのストーリーなので、ぜひとも1話から連続で観てはほしいのですが、お時間のない方は、ぜひ金田作画をご堪能ください。巨大ロボットアニメの魅力、その原点が味わえると思います。

では、また次回(敬称略)。