第36回 天才アニメーター金田伊功の仕事を振り返る(2)

[  カテゴリ  氷川竜介のチャンネル探訪  ] 2011年09月02日 12:57
日本のアニメを変革したアニメーター金田伊功(2009年に物故、享年57歳)。
アクション、エフェクトとその天才的な仕事は将来にわたり「日本独特の作法」として継承されていくことでしょう。

 一方、ロボットものではないSF作品の作画も金田さんはすばらしい。
これはぜひとも強調しておきたいことです。
本来は無機質なマシーンの宇宙船や戦闘機が、まるで生命を得たかのように駆けぬけ、乱舞のようにバトルする。メカやエフェクトだけでも充分に見せ場となる味わい深い作画は観客に高揚感をもたらし、時代を変革させるものすごいパワーを秘めていました。
 その分野における金田作画は、劇場版『銀河鉄道999』('79)の惑星メーテル崩壊や『ヤマトよ永遠に』('80)の中間補給基地など映画の仕事がよく知られています。
ですが、ここではそうしたメジャー作品の先がけとなる『
無敵鋼人ダイターン3』('78)、
その第12話「遙かなる黄金の星」をまっさきにとりあげたいと思います。

(C)創通・サンライズ
 作品のジャンルはロボットアニメですが、ヒーローものとしても知られた作品です。
ダンディでかっこよく強い波嵐万丈が美女アシスタント2人とメガノイドの起こす怪事件を追い、クライマックスでは巨大ロボットダイターン3を呼んで格闘戦となる、そんなハイブリッド的な作品ですね。『
ザンボット3』に続く富野由悠季監督作品ですが、シリアスから一転した明るくユーモラスな作風は、今でも多くのファンの記憶に刻みこまれています。金田さんご本人もノリノリで、それは第2話「コマンダー・ネロスの挑戦」などのロボットアクション作画からもよく伝わってきます。

(C)創通・サンライズ
 そんな万丈の痛快な活躍を10話ほど描いた後に登場した異色作がこの第12話で、明るく屈託のない快男児と思われていた万丈の過去にまつわるエピソードでした。万丈の父親が推進していた宇宙開拓用サイボーグの開発計画のどこかに歪みが生じ、メガノイドは人類に反旗を翻す。そこで母親が万丈を火星からロケットで脱出させ、そのとき持ち出した金塊などが万丈のバックボーンとなって戦いが続いていることが明らかになります。
 回想シーンは人物もメカも全編がアブノーマルなモノトーン彩色で、トレスとペイントを2色で塗り分ける「TP2色」という技法が使われています。マサアロケットと追撃するメガノイド側の巨大メカを中心としたスペースバトルも白を基調としたモノトーンで描かれていますが、ちょうどこの時期はアメリカ映画『スター・ウォーズ』が日本で公開されたタイミングだったことを思い出させます。
 ミニチュア側を固定し、カメラの方をコンピュータ制御するという新技術モーション・コントロールカメラが使われた『スター・ウォーズ』。それは1コマ単位の長時間露光が可能となり、作り込まれたミニチュアのディテールにまでピントが合う画期的なものでした。空気のない宇宙空間で平行光線があたっている効果を見せるためにも、ミニチュアは白をベースにペイントされ、陰影を強調するような作りとなってました。
 1960年代中盤まで「宇宙ロケット」のイメージは「銀」が一般的でした。ところが実際にアポロ計画が始まったあたりで「白」が基調に変わり、映画『2001年宇宙の旅』や『スター・ウォーズ』もそれを踏襲しています。さらに『ダイターン3』では「その変化をどうアニメに持ち込むか」ということが試行されていたわけです。
 結果的にこのメカ戦闘は、金田伊功さんならではの大胆なカゲつけが施されつつシャープなアクションとなっていて、洋画とはまたひと味違うものに仕上がっています。途中、ダイファイターが戦闘機迎撃に出ますが、ロボットに変形しない抑制もいい感じ。Aパート中盤からのわずか数分のシークエンスですが、実写の進化をアニメがどう取りこむかという意欲が伝わってきて、今でも非常に新鮮だと思います。
 先述の第2話でも円や直線のブラシワークで構成された「光」が続出していますが、これも同年公開の大作映画『未知との遭遇』の影響なんですね。。アニメーションで「光」を自在に動かす爽快さは実に面白いです。
 ダイターン制作当時、作画担当のスタジオZで金田さんにお会いしたとき、「実写であんなことやられたら困るよね」と苦笑いしながらも、この2話や12話の原画に鉛筆を細やかに走らされていた姿が、昨日のことのように思い出されます。漫画家・星野之宣の当時まだ単行本化されていなかった『巨人たちの伝説』も参考にされてましたので、まさに先鋭的な宇宙描写のブレンドだったのです。
 ある種の刺激的なインパクトを外圧として受け止めつつ、それをアニメならではの画づくりに置き換え、自らの表現として消化していた金田伊功さん。その仕事にこめられたエネルギーもまた、新たな世代を刺激し続けるものとなったのではないでしょうか。では、また次回(敬称略)。


《情報》
●CEDEC2011(ゲーム開発者向けカンファレンス)
9月7日、晩年に所属していたゲーム会社スクウェア・エニックスでの金田伊功さんのお仕事が紹介されます。
http://cedec.cesa.or.jp/2011/program/GD/C11_I0036.html
 また別途、「マルチカメラパラメータを用いた映像誇張方法の提案」として、「金田パース」と呼ばれるデフォルメ遠近法表現をCGの世界で実現する手法も紹介されます。
http://cedec.cesa.or.jp/2011/program/poster/C11_P0159.html