第39回 ローカルに繰り広げられる善と悪の戦い『天体戦士サンレッド』

[  カテゴリ  氷川竜介のチャンネル探訪  ] 2011年10月14日 13:03

日本の「アニメ」で本当にすごいのは、クオリティとかそうした表面的なものではなく、 題材や表現のもつバラエティの豊かさではないでしょうか。

月額1,000円見放題サービスに『天体戦士サンレッド』が入ってきたのを見て、そのことをあらためて思い出させられました。
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悪の組織が送り込む怪人と正義のヒーローの戦いなのに、舞台は神奈川県川崎市・武蔵溝ノ口駅周辺という、きわめてローカル性豊かなショートギャグ作品です。
「世界征服」を語っているのに、最初のテレビ放送がTVK(テレビ神奈川)限定というそのギャップが笑えます(ネット配信で同時公開)。
 配役に髭男爵の山田ルイ53世とひぐち君など、お笑い系を多数配置して小気味よいテンポの会話劇で短編を積みかさねる形式で、AKB48から河西智美と板野友美が「天井」という謎キャラの役で出ているなど細かいネタも満載。
バラエティ番組に近い感覚でサクサクと楽しく見ることができて、時間のある限りいつまでも笑いながら視聴し続けられるという、まさに定額向きの作品なんですね。
 特に組織フロシャイム側のヴァンプ将軍は、非常に卓越したキャラだと思います。
仕事としてサンレッドをつけ狙う「悪の幹部」をやっているわけですが、女性的な物腰と優しい言葉づかいで面倒見もよく、気配りにあふれている「いいひと」なんです。サンレッドの方は同棲している女性かよ子に生活費をみてもらっていて、昼間からパチンコしてブラブラしていて、家では「ヒモ」が禁句になっている。いったいどっちが「悪」なんだか分からないという、逆転の構図が面白いです。
 しかも単にひっくり返して笑いをとるだけのものではないんですね。正義と悪の落差に爆笑しつつずっと見続けていると、「サンレッドの世界観」とでも言うべき非常に奥の深いものがチラリとかいま見えてきます。そこでもう一段この作品が好きになれる。そこからが本番という感じです。

(C)くぼたまこと/スクウェアエニックス・フライングドッグ
 「異形の怪人やヒーローをみんなが普通に受け入れている」という大ウソ以外は、ルールもきちんと確立されて辻褄の合っている世界が映像の中にあるんです。そしてサンレッドも幹部も怪人も、みんなきわめて人間くさく複雑性のある内面を抱えている。
特に次々に登場するフロシャイム怪人は「いるいる、こういう人」と共感できる言動ばかりで、作り手側の人間観察力に敬服するばかりです。
 そこに「もうひとつの世界」が存在して感情移入に値するべき「人の集団」がいる。この点で、ハイファンタジーにも匹敵する「世界観」があると言えるわけです。一見してそう見えないところもすごい。
 それもそのはず、この作品をつくっているアニメスタッフは実にゴージャスです。
監督の岸誠二(第2期は総監督)は『瀬戸の花嫁』や『Angel Beats!』などのヒットメーカー。「ヒーローキャプテン」という見慣れないクレジットのまさひろ山根は、前回紹介した大張正己と担当した勇者シリーズのシャープなメカ作画で知られ、スーパーロボットやヒーローを描くのが生き甲斐のアニメーター。『神魂合体ゴーダンナー!!』でもメカニックキャプテンを名乗ってましたし、『バンブーブレード』でも劇中ヒーローのブレイバーデザインを手がけています。
 AIC ASTAに集まったクリエイターたちは、こうした実力派ばかり。彼らが全身の力をこめて、あえてぬるくも見えるかもしれないギャグを真剣にかましているというところが、まさしく「フロシャイム怪人たち」に重なって見えるんです。事実、回が先に進むと、フロシャイムの実力はすごいということも語られていきます。軽くあしらっては憎まれ口をたたいてばかりのサンレッドが、本当は彼らのことをどう考えているか、本心も見えたりもする。この多重構造の中で「身近にあるユートピア的共同体」みたいな概念が浮かび、笑いが幸福感に転化するのを感じました。
 一風変わったギャグアニメとしてももちろん笑えるし、ずっとつきあっていくと深い感動もするという奥の深い作品。この機会にぜひ楽しんでいただけたらと思います。では、また次回(一部敬称略/定額以外のタイトルを一部含んでいます)。

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