たとえばTVシリーズ『超時空要塞マクロス』と劇場版の『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』は大枠で同じ話ですが、敵側の設定やキャラの性格づけなどが異なっています。これは、それぞれの作品が「事実をもとに再構築されたフィクションである」というスタンスをとることで、食い違いがあっても「解釈の違い」に落ち着けているわけですね。
1992年のOVA『超時空要塞マクロスII -LOVERS AGAIN-』も、そういう意味で傍流的な扱いになっているはずです。
『マクロスF』にまでつながる流れで非常に重要なのは、1994年にOVAと劇場版で制作された『マクロスプラス』と、同じ年に平行してTVシリーズで放送された『マクロス7』です。この時期からマクロスサーガの方向性はさらに拡がり、物語の舞台も地球と太陽系を離れて、銀河播種計画(宇宙移民)を前提に大きく拡がっていきます。この2作品は、まさに歴史の転換点なのです。


第1作目から、「宇宙船の中に街がある」という設定は核になっていました。現実とそれほど変わらない生活空間で日常描写も重ねつつ、銀河系規模のスケールの大きな旅を敢行する中で、戦闘のサスペンスとカタルシスもある。そんな多様な要素の接続は、「都市型宇宙船」の設定が可能にしたものです。規模をドーム型居住区をもつ宇宙船団にまで拡大させたのが『マクロス7』で、『マクロスF』もそれを直接的に継承しています。


一方の『マクロスプラス』は、移民済みの惑星エデンにおいて次期主力戦闘機のコンペが行われるという、舞台としては地上ものです。しかもマクロス名物「三角関係」は「女性ひとりに男性ふたり」という珍しい比率になっています。
総監督は河森正治ですが、ディテールを重視し、地に足のついた演出の監督は渡辺信一郎、エスニック調をとりいれた斬新な音楽は菅野よう子と、後に『カウボーイビバップ』で人気を博すコンビが注目されるきっかけとなった作品でもあります。オリジナルキャラクターデザインは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』の監督で知られる摩砂雪で、独特のシャープさで青春と大人の中間ぐらいの絶妙な年齢にある人物像を描き出しています(同時期にはアニメ版『帝都物語』も担当)。
『プラス』にちょっと大人な雰囲気をもった作品という評価があるのも、アニメチックな華やかでポップな雰囲気をもつ『マクロス7』と対照的にした結果で、ある種のアダルトなテイストをもつスタッフ陣の渋めの個性が大きく影響していると思います。また、OVA・劇場という前提もあってキャラ描写もメカ描写も濃密で、その点も大人っぽいです。


特に板野一郎によるバルキリーのドッグファイトは、作画で描かれる戦闘シーンのひとつの頂点を極めたと言って過言ではありません、驚くべき立体感あふれる視点移動の快感と同時に、メカの挙動からリアリティの重みが伝わってきます。マクロスと板野サーカスを語るうえでは必見の作品。劇場映画化された『マクロスプラス MOVIE EDITION』の方がまとまりが良いのと戦闘シーンが濃密なので、お得ではないかと思います。では、また次回(一部敬称略)。

(C)1994 ビックウエスト/マクロス製作委員会
(C)1994 ビックウエスト/マクロス7製作委員会
(C)1995 ビックウエスト/マクロス製作委員会