第43回 空中の実体験を反映した『マクロスプラス』の映像

[  カテゴリ  氷川竜介のチャンネル探訪  ] 2011年12月12日 18:04

シリーズ中屈指のクオリティを誇る『マクロスプラス』および『マクロスプラス MOVIE
EDITION
』。
アクセス数応援ということで、もう少し話を続けましょう。


(C)1994 ビックウエスト/マクロス製作委員会


 マクロスシリーズの良いところは、少し時間が経ってからの方がよくわかる先端の問題意識を反映したテーマ設定や、
「なんでまたこんな無茶なことを」と思えるほどの高密度映像に出逢えることでしょう。
OVAの『マクロスプラス』では特にそういう側面が強くなっていると思います。



(C)1994 ビックウエスト/マクロス製作委員会
(C)1995 ビックウエスト/マクロス製作委員会


 マクロス定番の歌姫シャロン・アップルは初音ミクを10数年も先取りして人工知能が産み出したバーチャルアイドルという設定。
ミュージシャンのPVでも知られる森本晃司の手がけたコンサートシーンでは、模索中だったセルアニメとCGの融合が多用され、
アニメーション撮影台では不可能な大きなカメラ移動、
手描きでは難しい幾何学図形との合成などなど驚きのビジュアルが続出します。
シャロンはコンピュータによるキャラクターという設定なので、それと親和性のある使われ方がポイントです。
プリントアウトとセルの組み合わせのローテクからフォールド中の金属的な質感のテクスチャ処理のハイテクまで、映像の持ち味を演出に応用して均質化を避けている工夫も、非常に好印象です。

 

(C)1995 ビックウエスト/マクロス製作委員会


 もうひとつ本作の大きな注目ポイントは、「模擬空中戦の体験を反映したドッグファイト」です。
板野一郎特技監督と河森正治総監督がアメリカにわたっての空中戦は、筆者も最近になって河森監督自身の口から体験談をうかがい、感銘を受けました。

 教官を横に乗せて飛び、操縦方法を習った上で自分でスティックを握っての模擬空中戦では、2機で飛びながらすれ違った後に戦闘開始。空中戦では闇雲に撃っても当たらないので、軌道を合わせて「後ろをとってロックオン、ファイヤー」というのが作法になります。犬が互いの尾を狙って争う「ドッグファイト」と呼ばれるのはそのためです。その射線を合わせる体感が『マクロスプラス』には焼きついているのです。


 特に面白かったのは、実際の飛行機の操縦がゲームセンターの操作とはまるで違うという話です。

ゲームではフレーム内を見て自動車のように左右にスティックを振って進行方向を変えますが、飛行機は羽根がついていてその揚力で飛んでいるため、上昇することしかできません。右に行こうとしたときには、機体をひねりながら回って上がることになりますし、視線も真正面には向きません。『マクロスプラス』ではその体験から、すべてを「上昇旋回」としてきちんと描かれているのです。

 もうひとつ興味深かったのは「Gの表現」です。
人間の身体はムクのフィギュアではないので、内部にさまざまな液体があります。
いきなり急加速してGが加わると、その液体に影響が出るわけです。
多くのSF映像作品では演出上の都合でこれが無視されていますが、それも反映したとのこと。
飛行中は6G以上出ていて首が回らず、しかしアドレナリンの影響で妙にハイになって痛くはないとか、
血が偏って視界がフッと消えてしまうブラックアウト経験をした板野一郎は飛行機から降りてすぐその感じをコンテに起こしたとか、壮絶な談話ばかりでした。
 クライマックスの戦闘では、パイロットの身体が大変なことになるシーンもありますが、すべてが実体験から導き出されたこと。
そんな作品はなかなかないと思います。ぜひとも体感を反映したドッグファイトを疑似体験してください。
では、また次回(一部敬称略)。