第45回 劇場版『機動戦士ガンダム』完結から30周年

[  カテゴリ  氷川竜介のチャンネル探訪  ] 2012年01月19日 12:25
機動戦士ガンダム』はTVシリーズの1979年が初出です。なのですでに30周年記念イベントは済んでしまったのですが、
実際にガンダムブームが爆発的になっていたのは劇場版『機動戦士ガンダム』3部作のときなので、少しタイムラグがあります。
劇場版第1作が公開されたのは1981年3月14日、
そして第3作目の「めぐりあい宇宙(そら)編」が公開されたのはちょうど1年後の1982年3月13日でした。
ということで、いまは実は「ファーストガンダム完結」からちょうど30周年のタイミングにあたっています。

 さてその劇場版『機動戦士ガンダム』ですが、実はこの3部作自体の中には大きな進化を見ることができます。
基本的に物語とドラマの核は、TVシリーズとそんなに違いはありません。スタッフ側には「TVでヒットした要素をそのまま映画館で見せよう」という暗黙の了解があったと言います。
ただし、TVシリーズのガンダムは非常に厳しい環境で制作されたため、クオリティ的には少々厳しい部分もあります。特に絵柄については、アニメーションディレクターの安彦良和がかなり手をいれているものの、必ずしも統一がとれているわけではありません。
 さらに1本の映画としてまとめあげていく都合もあって、「新作カット」が劇場用に多数制作されているのです。当時は、この新作部分をを見ること自体も劇場版の大きな喜びでした。安彦良和自身は「お色直し」というような表現をとっています。「少しは見栄えをよくしよう」という程度で、「劇場向けに力をいれました」ということではないということです。
 しかしながら、この新作には独特の手法が使われてクオリティを高めているのも事実です。作画監督は他のアニメーターがあげてきた原画をチェックし、絵柄や動きがちがっていれば修正をかけます。後工程でクオリティをあげるわけですね。
 一方、この劇場用新作は逆の発想です。レイアウトとラフな原画(第一原画)を手の早い安彦良和自身が、先に描きあげてしまうのです。これに対して若手アニメーターが第二原画として、動画に回すための清書を行ってタイムシートを整理します。前工程にクオリティ確保のリソースを集中するわけです。
 これは『アルプスの少女ハイジ』などで宮崎駿がとっていたレイアウトシステムが元でもあり、後のアニメ制作にも大きな影響をあたえていますが、それはさておき。実はその「新作カット」の使われ方自体が、劇場ガンダムで少し違っていて、それが隠れたみどころになっているのです。
 1作目では本当にキャラクターの整っていない部分や、たとえば第6話と第9話をつなげたためにガンダムの手持ち武器が違うところの修正などに使われるのが大半でした。演出意図としては違わないわけです。ところが2作目では、もっと大胆にエピソードを圧縮していく都合もあって、シチュエーションごとの完全新作が目立ちます。

「機動戦士ガンダム」第6話 ガルマ出撃す/第9話 翔べ! ガンダム より
これが短いカットながらも、実に映画っぽい膨らみをもつ良い画が多いんですね。冒頭から砂嵐が吹き荒れるマ・クベ鉱山とか、ビッグ・トレーがオデッサ作戦に向けて移動中に野犬が追うとか、補給するホワイトベースの脇の草むらに名も無い兵士の死体があるとか、ほんのちょっとした描写が加わることでものすごく雰囲気が出ているのです。
 さらに第3作目になると、新作の入れ方がもっとこなれてくるようになります。ちょうどTVシリーズでは安彦良和が倒れたパートでもあったため、新作の分量が3部作中もっとも多いこともあって、シークエンス単位で新作という箇所も増えています。さらにはTV版では動画マンだった板野一郎がメカやエフェクトを大量に受けもっているため、ちょうどイデオンとマクロスの中間ポイントにあたる「板野サーカス」も楽しめる、映画としてゴージャスなものになっていきます。
 なので3本を続けてみると、1981年から1982年にかけてアニメがめきめきと表現力を上げていった時代の記録のようにもなっているんですね。ちょうどたまたま月額会員専用で24時間限定企画で、1/20から連続3日間、劇場版が配信されるとのこと。
そんな時代の進化を一挙に楽しむチャンスではないでしょうか。では、また次回(一部敬称略)。

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